Meryeselfミライセルフ

というキャリアアプリを運営している会社の仲間で書いているブログです。
AppStoreでのダウンロードはこちら
GooglePlayでのダウンロードはこちら

人の感情はどこから来るのか?

前回のブログでは、文化が人の認知にどのように違う影響を与えるのかを紹介しましたが、今回はどの文化にも共通する普遍的なもの、「感情」についてです。

ミライセルフのプロダクト、mitsucariでも使っている、表情認識テストにまつわる、感情研究の背景や歴史に少しだけ注目していきたいと思います。

 

さて、私たちの感情はどこから来るのでしょうか?私たちは、文化的なコミュニケーションによって感情を学んでいるのでしょうか、それとも我々は生まれながらにして感情を表したり、認識する能力を備えているのでしょうか?

 

実はこの問いに対してはじめに有力な見解を示したのは、チャールズ・ダーウィンでした。

 

ダーウィンは1859年に「The Origin of Species(種の起源)」で、人間はサルやチンパンジーなどの原始的な動物から進化した、と主張しました。そのあと、1872年に「Facial Expression of Emotions in Man and Animals」という本で、顔に表れる感情は、人種や文化に関係なく、普遍的なもので、人間が進化する過程で獲得した機能であると、自らの観察を根拠に主張しました。

 

しかし1920年代に、文化人類学者であるマーガレット・ミードが、サモアでのフィールドワークをもとに、「感情とは言語と同じように、生まれ育った文化によって違うものだ」とダーウィンの主張を否定しました。

 

ダーウィンとマーガレット・ミードを筆頭とした文化人類学者たちの論争に決着をつけるため、1960年代に、現在カリフォルニア大学サンフランシスコ校の名誉教授であるポール・エクマン(アメリカのTV番組、Lie To Me の主人公のモデル)が、「もし感情が文化圏によって違うなら、西洋文化に触れたことのない民族は、異なる感情を持っているだろう」と仮説を立て、パプア・ニューギニアに行き、調査をしました。

 

そしてエクマンの研究で明らかになったのは、「ダーウィンは大まか間違っていなかった」ということです。

 

エクマンは下の写真をニューギニア人に見せて、どの感情を表しているかを聞いてみると、 正確な解答を得られました。

f:id:Meryeself:20150723133630j:plain

(それぞれどの表情でしょうか?)

 

さらに、ニューギニア人自身も、西洋人と全く同じ表情を、それぞれの感情にあった表情で表すことが出来ました。

f:id:Meryeself:20150723133825j:plain

 (どの感情を表しているか分かるでしょうか?)

 

これをきっかけに、エクマンは人間の表情を科学的に研究するために、Facial Aciton Coding Systemという、顔面にある40もの筋肉のコンビネーションからなる感情を全て読みこむことのできる、表情解析ツールを開発しました。そして現代にいたるまで、彼を筆頭に感情研究は一気に盛んになりました。

f:id:Meryeself:20150723142949p:plain

 

そして今現在報告されている中で、文化、人種、言語、国、全く同じように認識でき、表すことのできる人間に普遍的な感情は7つあると言われています。

 

さらに、「人間は感情という能力を後天的に習得するのか、それとも先天的なものなのか」という問いに対しより明確な答えを示すために、筆者の指導教官である、サンフランシスコ州立大学のデイビット・マツモト教授が、柔道アメリカ代表のコーチとして自ら出向いたアテネオリンピックで、興味深い研究をしました。

 

下の表情の違いが分かるでしょうか?

f:id:Meryeself:20150723135452j:plain

 

両方の写真は、試合に負けた瞬間に撮影されたものです。しかし実は、左の選手は先天的に盲目です。マツモト教授は、パラリンピックの選手に着目して、生まれつき盲目の選手と健常の選手の表情を、オリンピック中に写真をとり、Facial Aciton Coding Systemを使って解析したのです。すると、それぞれの場面において、両者の間の顔の筋肉のコンビネーションは、ほぼ100%一致したのです。

f:id:Meryeself:20150723140058j:plain

勝ったときの感情を表すこのポーズも、盲目の選手と健常の選手の間に全く違いが見られないのが分かるはずです。

 

さらに興味深いのは、表彰式の表情をそれぞれ比べてみると、銀メダリストは盲目の選手も健常の選手も、同じ「嘘の笑い」をしていることが分かりました。悔しいから周りには見られたくない、でもこのような場所だから笑っていた方が良いという、ある程度社会性のある場面を経験しながら学ぶであろう表情ですら、盲目の選手には生まれつき備わっていたのです。

 

先天的に盲目の選手は、生まれてから一度も他人の表情を見たことがないため、人の顔を見て表情を学習することができないはずです。それにも関わらず、40の筋肉からなるコンビネーションを、勝ったとき、負けた時、表彰台に立ったときなどの状況に応じて、健常者と全く同じように動かし、同じ感情を表すことができたのです。

 

これら表情に関する一連の研究は、ダーウィンの「人間の感情は普遍的だ」という主張を強く裏付ける証拠を示しました。特にマツモト教授の盲目の選手に注目した研究は、感情表情は人間が生まれながらに持っている機能だということを示す強力なメッセージでしょう。

 

現在、感情・表情に関する知見は、FBIなどの政府機関、臨床心理、ビジネス交渉、映画やテレビなどに幅広く応用されています。ミライセルフのテストも、このような研究に基づいた知見を使ってテストを作っています。筆者は、日常生活はもちろん、「とんねるずの食わず嫌い王」で、嘘を見抜くのに、応用したりしています。

 

 AIoL(アイオーエル)の時代になり、Pepperくんを初め、感情を備えたらしいロボットまでもが登場してくるというニュースもあります。しかし、犬やサルなどの生物に共通する感情は、人間が生き物の一種であることの証であり、「感情を正確に表す能力」は、ロボットも未だに越えられない、私たち人間に特別な能力なのではないでしょうか。

 

Kodai